COST2014でプレニオさんが量子生物学の講演をしていた。
https://erez.weizmann.ac.il/pls/kns/kns_pack.showfile?pcode=879
彼は量子情報ではこれまで良いお仕事をされてきたという評価のある人だが、最近は生物分野での量子効果を研究している。
私は量子化学と量子生物学の境界や包含関係がいつも分からないのだが、それは私のせいではない。
この量子生物学が新しい分野すぎて、今後どのように発展していくか誰にも分からないのだ。
その価値も未知数である。
今回プレニオさんは光合成、鳥類が用いる磁場的方向センサー、そして人間の嗅覚を取り上げて紹介していた。
これらの一部は、量子トンネル効果や量子コヒーレンスの存在が発現に関わっているかもしれないという主張だ。
私がちょっと面白いと感じたのは、嗅覚の研究に関してである。
人間の鼻の奥の嗅覚センサーで感じる化学物質は、分子構造が大きく違っていても同じ匂いを感じる場合もあれば、逆にほとんど分子構造が同じ化学物質なのに異なる匂いを感じる場合もあるらしい。
複数の化学物質に共通している部分的構造が同じ匂いを感じさせる原因とは限らない可能性もあるかもしれない。
嗅覚や視覚の理解をそのセンサー部分の局所的解析だけから求めることには、注意が必要だ。
嗅覚や視覚では、外部刺激が体に誘発する局所的な化学反応の電気情報を脳に集積して、それを情報処理する過程が基本であると考えられる。
結局脳が最後の段階で、様々な種類の電気信号を処理をして視覚や嗅覚の個人的「イメージ」を作り上げている。
同じ匂いとか、違う匂いとかという区別が、外部刺激を受け取った初期段階で決定されているのかは疑問だ。
視覚で言えば、脳の作業の結果として「錯覚」
http://www.youtube.com/watch?v=A4QcyW-qTUg&feature=youtu.be
という現象も起きるわけだし、見えている世界の「色彩」もそこで初めて発生する。
例えば色に関しては以下のことが知られているようだ。
「ニュートンは「光には色はない。光は色の感覚を生じさせる力を持っているにすぎない」と述べています。簡単な実験で確認できます。たとえば、右目に赤色、左目に緑色を見ると、存在していないはずの黄色が「見え」ます。そう、色は脳の産物なのです。」池谷雄二著「パテカトルの万脳薬」より。
だから視覚と同様に嗅覚でも、単純に鼻に入る化学物質の種類等の「局所的要素」だけが問題なのではなく、脳で行われる嗅覚に関する情報処理がやはり大切になる気がする。
嗅覚センサーにおいて量子効果が確かに存在したとしても、嗅覚そのものの理解には脳の研究との連動が不可欠となるのではないだろうか。
なお量子的嗅覚の研究は、quantum olfactionという単語などで検索してもらえると様々な記事を読むことができる。