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Quantum Universe

量子情報物理学を中心とした話題で、気が向いたときに更新。ツイッター: https://twitter.com/hottaqu

時間とエネルギーの不確定性関係と、相対性理論

時間とエネルギーの不確定性関係は、世間で誤解されている側面が強い。

測定時間とエネルギーの測定誤差には不確定性関係があると信じられてたり、そのため短い時間ではエネルギー保存則は破れてもいいと考えられたりしている。

これらは以下の記事でも言及されているように、全くの間違いだ。

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744

量子力学において時間はエルミート演算子で書ける物理量ではなく、4次元時空の中の空間的(spacelike)な3次元超平面を指定する外部パラメータに過ぎない。

従って測定時間とエネルギーの測定誤差の不確定性関係は、教科書で習う位置と運動量の間のケナード不等式(ΔxΔp≥ℏ/2)や最近知られるようになった小澤不等式のようには証明できない、間違った概念なのである。

ところがこのような説明をしても相対性理論を持ち出して、ΔxΔp≥ℏ/2はなんらかの意味でのΔtΔE≥ℏ/2を意味するのではないかと考える人もいるだろう。

相対論では時間と位置は4次元ベクトルを組んでおり、同様にエネルギーと運動量も4次元ベクトルを組んでいる。

相対論的場の量子論にはローレンツ不変性があるため、ΔxΔp≥ℏ/2からΔtΔE≥ℏ/2が導かれるはずだというわけだ。

しかし、これも間違った議論なのだ。

非相対論的量子力学と異なり、相対論的場の量子論では厳密な意味でのΔxΔp≥ℏ/2は出てこないからだ。

1つの粒子に対する位置演算子が存在しないためである。

だから厳密な意味では、Δxは定義すらできない。

 

相対論的な量子系で粒子の位置演算子やその固有状態を構築することは古くから試みられてきた。

例えば1粒子の相対論的な運動量固有状態の重ね合わせから、互いに直交する位置の固有状態「のような」ものを作れる。

それは、基本的には図1のように非相対論的量子力学と同様の構成でできる。

f:id:MHotta:20140429174426j:plain

 しかし明らかにこの"位置の固有状態"は相対論的変換性を持たない。

ある慣性系で1粒子の"位置の固有状態"を作っても、他の慣性系では"位置の固有状態"にはならないのである。

また時刻t=0に粒子がx=0にある状態に設定しても、次の瞬間には(t,x)=(0,0)と因果的に結び付かない図2の青色領域の"位置の固有状態"も含んだ重ね合わせ状態になってしまうのだ。

f:id:MHotta:20140429171205j:plain

物理的な粒子の位置の振舞とは到底思えない。

図1の方法で構成された"位置の固有状態"で更に問題なのは、局所的物理量の振舞いである。

この状態でエネルギー密度のような局所的物理量の期待値を計算すると、粒子が存在する地点に集中したデルタ関数的な分布を示さず、粒子の存在しない領域にも広く分布してしまう。

これらの悪い性質から、図1のような"位置の固有状態"は物理的なものではないと多くの研究者は考えている。

相対論的変換性は、粒子の質量mとエネルギーを使って図3のように変形した状態では良くなる。

しかし今度は位置の異なる状態同士が直交しなくなるのだ。

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またこの状態は光子のような質量零(m=0)の粒子に対しては定義そのものができない。 

実は、1粒子が厳密に特定の位置に局在する「本当の位置の固有状態」は相対論的場の量子論では構成できないことが知られている。

粒子が空間のある領域Ωの中に厳密に局在している量子状態|Ψ〉は、数学的には以下のように定義される。

エネルギー運動量テンソルのような場の理論の局所的演算子に対して、|Ψ〉での任意の多点相関関数がΩの外では真空状態|0〉での値と一致する場合に、|Ψ〉で記述される粒子はΩの中に局在していると判断するのだ。

f:id:MHotta:20140429182751j:plainつまり考えている領域の外では、|Ψ〉でのいかなる物理量の期待値、分散、高次モーメント、そして揺らぎの相関が、無を意味する真空状態のものと区別がつかないということだ。

領域外部の観測者にとって、|Ψ〉は真空状態と全く区別がつかないという意味である。

この定義のもとで、1961年にナイトは有限個数の粒子を厳密にΩの中に局在させることはできないことを示した [1]。

この結果から1粒子が特定の位置に局在する「位置の固有状態」は存在しないことも分かったのだ。

粒子の質量を無限大にする非相対論的量子力学の極限だけで、近似的に粒子の位置演算子やその固有状態を導入できていたに過ぎないのだ。

従って相対論的場の量子論では、1粒子の位置座標演算子も存在しないし、その不確定性Δxも定義できない。

従ってΔxΔp≥ℏ/2も導出できない。

だからローレンツ変換からΔtΔE≥ℏ/2を導出することもできないのだ。

では図5のように、空間的に広がっている1粒子状態において、無理やり粒子の位置を測定しようとすると何が起きるのだろうか。

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実は、測定機の尖ったプローブ部分と測定される量子場との間の測定相互作用のために、図6のようにエネルギーが測定機から注入されて無限個の粒子生成が起きてしまうのだ。

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だから測定後にも1粒子の位置の固有状態は現れようがない。

結局相対論的場の量子論でも、時間とエネルギーの不確定性関係は出てこないのだ。

[1] J. M. Knight, J. Math. Phys. 2, 459 (1961).

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