今回の英国出張で最後の訪問地はノッティンガム大学。セミナーを行うために、友人のヨルマ・ルーコさんとシルケ・ワインファートナーさんの研究室へ。
そのときにヨルマさんが見学させてくれたのが、1930年6月6日に英国のドイツ協会が開催した講演会でアルバート・アインシュタインがドイツ語で書いたこの板書。一般人向けだったらしく、数式も少ないものになっている。
ただ面白いのは、デカルトの名前のスペルが間違っている部分。
デカルトはDescartesと書くが、「c」が「k」になっている。例え保存される板書でも、アインシュタインはタイポなんか気にしなかったのだろう。彼らしいエピソードだ。
シルケさんの実験室の見学もさせて頂いた。そこでは流体を使った曲がった時空の物性アナロジーを研究している。実は彼女のこの研究は、米国の人気ドラマ「The Big Ban Theory」にも登場しているのだ。
この主人公の1人がこの動画で一生懸命解説している内容が、まさに彼女の研究なのだ。この番組制作者は、物理学研究の動向を調べてこの場面を作ったようだ。
彼女の実験室には「ブラックホール実験室(Black Hole Laboratory)」という看板が、レーザー実験の危険注意喚起の「Warning」という警告と一緒にドアに貼られている。
このため、物理を知らない学生さん達が本物のミニブラックホールを作っている危ない研究室と想像して、恐る恐る実験室内部を窓から覗こうとしていることが良くあるそうだ。万が一にもブラックホールに吞み込まれたくないが、好奇心で見てみたいという、初々しい葛藤がある学生さんなのだろう。
実際は水流などを用いて回転するブラックホール時空上の速度場分布をレーザーで測定する実験を行っている。
回転するブラックホールには事象の地平面の外側にエルゴ球という変わった空間を持っている。回転が時空を強く引き摺るために、あらゆるものは外部に対して静止できない。この領域の性質を使うと、ペンローズ過程のように分裂する物体をブラックホールに落とすことで、エネルギーを取り出すこともできる。
ここの研究室では、事象の地平面とブラックホールからエネルギーをもらって増幅が起きるスーパーラディアンス(super radiance)の関係性を、多様な視点から探求しているのだ。
この写真は、回転しているブラックホールモデルに平面波が入射するときのデータ。実際の実験では流体のダストなどの管理にもえらく神経を使うとか、沢山の苦労話もお聞きした。滞在中は、いろいろ知的な刺激を受けたノッティンガム訪問だった。