Quantum Universe

量子情報物理学を中心とした話題で、気が向いたときに更新。X(旧ツイッター)https: //twitter.com/hottaqu note https://note.com/quantumuniverse

量子エンタングルメントを使って量子系から沢山の情報を取り出す方法

量子エンタングルメントは、量子情報科学における量子テレポーテーションや量子コンピューティング用の資源として知られている。

今回は様々な物理学分野における精密測定の資源としても使える可能性がある、量子エンタングルメントの側面を紹介しておこう。

現時点でこの技術を使っているのは量子光学系の実験が主だが、これからは半導体を含む様々な物性系や素粒子原子核系の実験、そして宇宙観測の技術にも入り込んでいく可能性もある。

物理学の多くの実験では、未知の相互作用プロセスの解明を目的にしている。

例えばヒッグス粒子の発見も、この粒子が関わる反応を精密に測定して達成されたものだ。

特に微小な結合定数等のパラメータの大きさの推定が重要な場合も多い。

そこで簡単な例を挙げて、パラメータ推定における量子エンタングルメントの有用性を説明したい。

図1のような外から中が見えない箱がある。

中には、箱の正面と直交したある大きさの磁場がかけられている。

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その箱にスピンがアップ状態にある電子を放り込むと、とても小さな角度θだけスピンは回転されるとしよう。

このθは未知であり、箱から出てきた電子のスピンを測ることで、θの大きさを推定したい。

そうすれば、箱の中の磁場の強さが推定できる。

従来の実験では図2のように、大量のN個の電子スピンを同じ状態に用意して、それぞれを箱に通してから個別に測定をして統計を溜める。

 

f:id:MHotta:20140509143405j:plainこの場合、よく知られているようにθの推定誤差はNの平方根に反比例して減少する。

しかし量子エンタングルメントを用いると、N個の電子スピンを使ってもNに反比例する推定誤差での推定が実現できるのだ。

これは従来の方法に比べて、Nの平方根分だけ、より精密なθの推定を達成している。

 この高い精度のパラメータ推定を説明するために、図3のように箱を90度回転させよう。

磁場の向きは、地面に垂直方向となる。

まず回した箱に電子のスピンアップ状態を放り込んで様子を見てみる。

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するとスピンの向きは変わらないまま、箱から出てきてしまう。

ただ出てきたアップ状態は、入ったアップ状態に比べてθだけ回った位相因子exp(iθ)がかかっている。

もちろん状態ベクトル全体にかかる位相因子は物理量ではなく、どんな実験でも測れない。

だから図3の状況で出てきたスピンを測定しても全くθの情報を得ることはなく、図1の場合より悪化したように見える。

しかしθの推定精度を上げるヒントは、図4のようにN個のアップ状態を放り込んだ時に得られる。

f:id:MHotta:20140509143421j:plain出てくるN個のスピン系の状態には全体としてexp(iNθ)の位相因子が付いている。

小さなθの効果が、N倍になっている。

Nを十分に大きくすればNθは1程度にまでできるので、この増幅効果には期待が持てる。

しかし図4の場合でも、このNθは観測量ではない。

せっかくのN倍の増幅効果をいかすために、量子エンタングルメントを利用しよう。

図5のように、N個の電子スピンの量子エンタングルメント状態を考える。

N個全てのスピンがアップであるマクロ状態と、N個全てのスピンがダウンであるマクロ状態の足し算になっている。

これは(シュレーディンガーの)「猫状態(cat state)」とも呼ばれる。

f:id:MHotta:20140509143429j:plainこのN個の電子を一個ずつ箱に通して上げると、最後にできる状態は図5の下の式のようになる。

N個全てがアップの状態の部分にはexp(iNθ)、ダウンの状態部分にはexp(-iNθ)の因子が付いている。

今度は2つのマクロ状態の間の相対位相因子としてexp(i2Nθ)が現れるが、これは観測可能量である。

そして2N倍の増幅効果のために、Δθ=π/(2N)程度の誤差でθが推定できることが分かる。

従来の方法では(1/N)^(1/2)でしか減少しなかった推定誤差が、量子エンタングルメントのおかげで1/Nという速いスピードで減衰するのだ。

もちろんここでの議論には、デコヒーレンスの効果を抑えつつ、猫状態を制御できるという前提がある。

現時点では技術的に簡単には達成できない話だ。

しかし将来量子計算機の技術が進み、量子エンタングルメントの制御技術が上がるにつれて、このような量子パラメータ推定の現実味も増してくることだろう。

 

量子エンタングルメントを用いると、別なタイプの量子推定もできる。

図6のように2つのスピンAとBを考え、その量子エンタングルメント状態を用意する。

また未知の微小パラメータgに依存した操作をスピンに行う箱があり、Aをそれに放り込む。

f:id:MHotta:20140509143451j:plainそしてAにはgの情報が書き込まれる。

ここでAB両方を並べて二つを跨ぐ量子測定を行うと、量子エンタングルメントを使わない場合に比べて、gの推定誤差は一般には小さくなるのだ。

それはgの情報が単にAのスピン本体に書きこまれるだけでなく、AとBとの間の量子相関にgの情報が書きこまれる分も存在するからである。

ここでの議論の一般論は、量子フィッシャー情報量の理論を用いると厳密に構成できる。

量子フィッシャー情報量に関して、例えば[1]に解説がある。

また図6のような設定で、系から取り出せる情報が増えることを指摘した論文としては[2]が知られている。

また低ノイズ系での微小パラメータ推定の一般論は[3]にある。

 

[1]林正人, "量子情報理論入門", (SGC32, 別冊数理科学, サイエンス社

[2]A. Fujiwara, Phys. Rev. A 63, 042304 (2001).

[3]M. Hotta, T. Karasawa, M. Ozawa, Phys. Rev. A 72, 052334 (11) (2005).

(追記:2016年日本物理学会誌11月号「標準量子限界を超える高感度磁場センサに向けて」松崎雄一郎著(NTT物性科学研)の記事では、Nが10の4乗のリンの電子スピン集団や、10の7乗のダイヤモンドの電子集団での実装可能性が論じられている。日進月歩の技術進化が、どんどんと量子技術の境界を広げている。)

 

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物理学における存在とは?

「存在とは何か?」という問題は、本来実に根が深い。

例えば、相対論的量子場の真空状態|0〉を考えよう。

普通の慣性系での量子化では、真空は粒子数が零の状態だ。

またエネルギー密度の期待値もどこでも零だ。

そして図1のように慣性運動している測定機Aで測っても、粒子は観測されない。

空っぽの「無」の状態そのもののように思える。

しかしFulling-Davies-Unruh効果、通称「ウンルー効果」という面白い現象が知られている。

図1のBのように真空中を一様加速度運動をしている測定機は、あたかもその加速度に比例する温度の熱浴の中にいるように振る舞うのだ。

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またこの一定の加速度κで運動している測定機を記述するのに便利な図2のリンドラー座標系(τ,u,y,z)に移ると、この座標系での粒子数も零ではなくなり、多数の粒子が有限温度の分布をしているように見える。(cは光速度で、図1ではu=0の軌跡を測定機は描いている。)

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リンドラー座標系の空間座標値uが一定の軌道上を運動する測定機はそれぞれ、その加速度a(u)に比例する温度の熱浴を観測する。

またアインシュタインを一般相対論構築に導いた有名な等価原理により、この一様加速度運動をしている測定機は図3のような静的な重力場の中に置かれているのと変わらない。

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一般相対論で記述される静的重力場中の熱平衡系では、温度が重力ポテンシャルの影響で異なることが知られている。

(相対論的効果のない熱力学における平衡系の温度は、どこの部分でも同じ。)

平衡系においてポテンシャルの深い場所では温度が高く、ポテンシャルの浅いところでは温度が低くなる。

ウンルー効果で観測される熱浴も、等価原理によって出てくる静的重力場に対して、正しくこの熱平衡関係を満たしていることが確認できる。

実にこの熱浴は、いかにも「存在」らしく、正しく振る舞うのだ。

 

古典電磁気学では、慣性系で電磁場が零ならば他のどんな座標系でも電磁場は零であった。

このため存在するとか、存在しないとかは明確に定義できていた。

しかし場の量子論になると、このように簡単に判断はできなくなる。

「存在」や「無」は、観測者や測定機に依存する概念となるのだ。

ただ「存在しているように観測できる。」ということが、「実在」していることと同義であるかも怪しくなる。

実際真空状態におけるエネルギー密度の期待値は、慣性系と同様に、リンドラー座標系でも零である。

それだけではない。

エネルギー運動量テンソルの全ての成分の期待値が零になっている。

存在して見えるこの熱浴は、エネルギーを持った実在でないということだ。

 

この不思議なウンルー効果は、質量が無限大に近いブラックホールのホーキング輻射とも関係が深い。

また最近では、ウンルー効果を通じて、真空の零点振動の量子エンタングルメントはブラックホールエントロピーとも関係していると考えられている。

ウンルー効果を足がかりにして、現在多くの研究者がより深い量子情報と時空の関係性を探求している。

なお8月に京大基研で行われる量子情報物理学の国際研究会YQIP2014(http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~yitpqip2014.ws/ )には、このウンルー効果の発見者であるウンルーさん自身も参加予定である。

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量子情報物理学研究会YQIP2014の発表申し込み締め切り1か月前のアナウンス

2014年8月4日から7日に京都大学基礎物理学研究所において量子情報物理学の国際集会を開催する。 

http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~yitpqip2014.ws/

現在参加登録及び口頭発表、ポスター発表の募集中。国内外の多くの方々に参加を呼び掛けている。

発表応募の締め切りは5月31日、参加申し込み期限は6月30日。

なおYQIP2014終了の翌日からは同じ会場で、以下の量子情報の若手向けのスクールがあるそうだ。

 基研研究会「若手のための量子情報基礎セミナー」

http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~qisc2014.ws/

若手の方は両方をまたいで参加して頂ける日程設定になっている。YQIP2014では発表をする若手の方を中心に、少し旅費、宿泊等の補助ができる予定。(なお財源は限られているので、全ての方には補助ができない可能性があることにご留意を。)

 

「YQIP2014」(8月4日~7日)

Invited Speakers:

Matthew Headrick (Brandeis University)

Benni Reznik (Tel Aviv University)

Takahiro Sagawa (University of Tokyo)

Tadashi Takayanagi (YITP)

Hal Tasaki (Gakushuin University)

William G. Unruh (University of British Columbia)

Go Yusa (Tohoku University)

Topics:

  • Black Hole Entropy and Information Loss Problem of Black Hole Evaporation
  • Quantum - Classical Transition of Quantum Fields in Early Universe
  • Interpretation of Quantum Universe Wavefunction
  • Informational Classification of Various Orders in Condensed Matter Physics
  • Entanglement Characteristics from AdS/CFT
  • Applications of Quantum Information to Renormalization Group
  • Quantum Information Thermodynamics
  • Informational Principle Quest for Quantum Mechanics
  • Consistent Extension of Quantum Mechanics
  • Quantum Simulator and Quantum Computation
  • Quantum Measurement, Quantum Control and Quantum Protocol

 

「若手のための量子情報基礎セミナー」(8月8日~10日)

講演者:

渡辺 優(京都大学):量子力学基礎
沙川 貴大(東京大学):情報理論基礎
山本 喜久(国立情報学研究所):実験基礎
藤井 啓介(京都大学):量子計算基礎

 

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時間とエネルギーの不確定性関係と、相対性理論

時間とエネルギーの不確定性関係は、世間で誤解されている側面が強い。

測定時間とエネルギーの測定誤差には不確定性関係があると信じられてたり、そのため短い時間ではエネルギー保存則は破れてもいいと考えられたりしている。

これらは以下の記事でも言及されているように、全くの間違いだ。

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744

量子力学において時間はエルミート演算子で書ける物理量ではなく、4次元時空の中の空間的(spacelike)な3次元超平面を指定する外部パラメータに過ぎない。

従って測定時間とエネルギーの測定誤差の不確定性関係は、教科書で習う位置と運動量の間のケナード不等式(ΔxΔp≥ℏ/2)や最近知られるようになった小澤不等式のようには証明できない、間違った概念なのである。

ところがこのような説明をしても相対性理論を持ち出して、ΔxΔp≥ℏ/2はなんらかの意味でのΔtΔE≥ℏ/2を意味するのではないかと考える人もいるだろう。

相対論では時間と位置は4次元ベクトルを組んでおり、同様にエネルギーと運動量も4次元ベクトルを組んでいる。

相対論的場の量子論にはローレンツ不変性があるため、ΔxΔp≥ℏ/2からΔtΔE≥ℏ/2が導かれるはずだというわけだ。

しかし、これも間違った議論なのだ。

非相対論的量子力学と異なり、相対論的場の量子論では厳密な意味でのΔxΔp≥ℏ/2は出てこないからだ。

1つの粒子に対する位置演算子が存在しないためである。

だから厳密な意味では、Δxは定義すらできない。

 

相対論的な量子系で粒子の位置演算子やその固有状態を構築することは古くから試みられてきた。

例えば1粒子の相対論的な運動量固有状態の重ね合わせから、互いに直交する位置の固有状態「のような」ものを作れる。

それは、基本的には図1のように非相対論的量子力学と同様の構成でできる。

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 しかし明らかにこの"位置の固有状態"は相対論的変換性を持たない。

ある慣性系で1粒子の"位置の固有状態"を作っても、他の慣性系では"位置の固有状態"にはならないのである。

また時刻t=0に粒子がx=0にある状態に設定しても、次の瞬間には(t,x)=(0,0)と因果的に結び付かない図2の青色領域の"位置の固有状態"も含んだ重ね合わせ状態になってしまうのだ。

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物理的な粒子の位置の振舞とは到底思えない。

図1の方法で構成された"位置の固有状態"で更に問題なのは、局所的物理量の振舞いである。

この状態でエネルギー密度のような局所的物理量の期待値を計算すると、粒子が存在する地点に集中したデルタ関数的な分布を示さず、粒子の存在しない領域にも広く分布してしまう。

これらの悪い性質から、図1のような"位置の固有状態"は物理的なものではないと多くの研究者は考えている。

相対論的変換性は、粒子の質量mとエネルギーを使って図3のように変形した状態では良くなる。

しかし今度は位置の異なる状態同士が直交しなくなるのだ。

 

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またこの状態は光子のような質量零(m=0)の粒子に対しては定義そのもができない。

実は、1粒子が厳密に特定の位置に局在する「本当の位置の固有状態」は相対論的場の量子論では構成できないことが知られている。

粒子が空間のある領域Ωの中に厳密に局在している量子状態|Ψ〉は、数学的には以下のように定義される。

エネルギー運動量テンソルのような場の理論の局所的演算子に対して、|Ψ〉での任意の多点相関関数がΩの外では真空状態|0〉での値と一致する場合に、|Ψ〉で記述される粒子はΩの中に局在していると判断するのだ。

f:id:MHotta:20140429182751j:plainつまり考えている領域の外では、|Ψ〉でのいかなる物理量の期待値、分散、高次モーメント、そして揺らぎの相関が、無を意味する真空状態のものと区別がつかないということだ。

領域外部の観測者にとって、|Ψ〉は真空状態と全く区別がつかないという意味である。

この定義のもとで、1961年にナイトは有限個数の粒子を厳密にΩの中に局在させることはできないことを示した [1]。

この結果から1粒子が特定の位置に局在する「位置の固有状態」は存在しないことも分かったのだ。

粒子の質量を無限大にする非相対論的量子力学の極限だけで、近似的に粒子の位置演算子やその固有状態を導入できていたに過ぎないのだ。

従って相対論的場の量子論では、1粒子の位置座標演算子も存在しないし、その不確定性Δxも定義できない。

従ってΔxΔp≥ℏ/2も導出できない。

だからローレンツ変換からΔtΔE≥ℏ/2を導出することもできないのだ。

では図5のように、空間的に広がっている1粒子状態において、無理やり粒子の位置を測定しようとすると何が起きるのだろうか。

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実は、測定機の尖ったプローブ部分と測定される量子場との間の測定相互作用のために、図6のようにエネルギーが測定機から注入されて無限個の粒子生成が起きてしまうのだ。

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だから測定後にも1粒子の位置の固有状態は現れようがない。

結局相対論的場の量子論でも、時間とエネルギーの不確定性関係は出てこないのだ。

[1] J. M. Knight, J. Math. Phys. 2, 459 (1961).

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トンネル領域で粒子を見つけたら、その足らなかったエネルギーはどこから来たのか?

ツイッター@hottaqu)で、次の問題を出してみた。

例えば1次元空間で図1のようなポテンシャルの中の粒子を考えよう。

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基底状態のエネルギーEは、原点付近のポテンシャルVoより小さい。

しかし、エネルギーが足らないため古典的には粒子の侵入を許さない領域にも、基底状態波動関数は浸み込んでいる。

「トンネル効果」である。

従って粒子が原点周辺に見つかる確率は、零ではない。

しかし原点付近に粒子が見つかるとすると、その足らなかったエネルギーはどこから来たのか?

それが「問題」である。

測定の結果、例えば図2のように粒子がある点x=ξの周辺に局在した波動関数u(x-ξ)になる。

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この状態では明らかにポテンシャルエネルギーの期待値は基底状態のエネルギーより高い。

また粒子がより局在するため、運動エネルギーの期待値も基底状態の時より高くなる。

従って確かに粒子はエネルギーの高い状態に見つかったことになる。

他の地点に見つかる可能性も考慮しても、あらゆる測定結果に対して平均化した測定後状態のエネルギーの期待値はEより高いことも分かる。

ではトンネル効果においてエネルギー保存則が破れているのか。

これは有り得ない。

量子力学でもエネルギー保存則は厳密に成り立っているのである。

量子力学で、短時間の間でもエネルギー保存則が成り立つことについては、以下の記事を参照。

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840

 

答えは、「測定機から粒子にエネルギーが流れ込んだ。」である。

古典力学とは異なり、量子力学では測定が本質的な役目を担う。

測定をしたければ、その測定機もエネルギーを持つ1つの物理系として用意する必要がある。

そして測定による状態変化のために測定される粒子のエネルギーが増えるならば、その測定機がそのエネルギーを与える必要があるのだ。

測定で得る情報の代償として、測定機のエネルギー消費が起こるわけだ。

もし測定機が必要なエネルギーを持っていなければ、その測定機が正確に測定を実行することはない。

つまりこの議論は、位置測定を実行できる測定機の駆動エネルギー下限を与える。

これはトンネル効果に限った話ではない。

位置測定に関する量子力学の一般的性質である。

 

具体的に位置測定の1つの例を挙げてみよう。

粒子が運動するx軸と直交するy軸を考える。

(粒子は外場によってx軸の直線上に閉じ込められているとする。)

図3のように、y軸の正方向に伝搬する局在した光パルスを各xの値毎に放つと、ある地点のパルスだけ散乱し、他のパルスは何事もなかったように通過する。

f:id:MHotta:20140428161957j:plainパルスをy軸の正の領域にあるスクリーンで捕らえれば、粒子がx軸上のどこの地点にいたのがパルスの横幅程度で分かる。

粒子は測定前に固有値Eを持っていたが、パルスとの散乱後には測定の効果としてそれより高いエネルギー期待値E(f)を持つ。

粒子を捕まえたパルスの散乱後のエネルギー期待値E(f;γ)は、散乱前のエネルギー期待値E(i;γ)より小さくなる。

そしてその差が粒子が得たエネルギーE(f)-Eに一致するのだ。

 

測定で得られる情報量とその代償としてのエネルギー消費が絡み合うこのような現象は、量子エンタングルメントを持った量子多体系の基底状態においても顕著に現れる。

基底状態は、定義により最低エネルギー状態である。

しかし部分系の物理量の測定をして有意な情報を得たとすると、基底状態エンタングルメントはこの測定行為によって破壊され、測定後状態は基底状態とは異なる励起状態に成らざるを得ない。

つまり基底状態にある量子系から一定の情報量を取り出すには、必ずその系にエネルギーを与える必要がある。

このエンタングルした基底状態における「情報量とエネルギーの間のトレードオフ関係」は、量子エネルギーテレポーテーション(Quantum Energy Teleportation, QET)という新しい量子プロトコルとも深く関連している。

このQETについては機会を改めて紹介しよう。

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測定時間とエネルギーの測定誤差の間に不確定性関係はない。

 量子論で有限の時間ではエネルギー保存則が破れるという間違った説明が様々な大学の授業で教えられているようだ。

特に素粒子や場の量子論の講義の中で、重い粒子が媒介して力を伝達するという部分においてこのような説明がなされているらしい。

この誤解は、有限時間ではエネルギーは正確に測れないという、時間とエネルギーの不確定性関係の間違った理解から出ているようだ。

もちろん時間変動を測り続けてフーリエ変換をするような、時間をかけないとエネルギーが測れない悪い測定も存在する。

しかしエネルギーを測る誤差は、本来測定時間と全く無関係である。

今回はそれを説明しておこう。

そのためにまず「理想測定」とは何かということを、スピンを例にして復習しておこう。

図1、図2にスピン1/2をもつ中性原子のz軸成分を理想測定する測定機の概念図を書いてみた。

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理想測定の満たすべき性質の1つとして、「正確に」測る物理量を読みとれるというものがある。

例えば図1のように、スピンがアップ状態ならば、必ずアップ状態であるという測定結果を測定機が示すことである。

同様に図2のように、ダウン状態でも必ずダウン状態であるという測定結果を確率1で出力する測定のことである。

もう1つの理想測定が満たすべき性質として、測定後の状態は測定結果に対応した固有状態になることが挙げられる。

図1では測定後の状態も|+〉であり、図2では|-〉である。

このような性質をもつ理想測定を実現する方法は1つの物理量に対して複数考えられる。

スピンの場合、よく知られているのは図3のシュテルン・ゲルラッハの実験であろう。

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原子を非一様磁場に通すと、スピンの値に応じて原子の位置が上下に分かれる。

その位置が十分に分離した場合、スピンのアップ状態とダウン状態も正確に区別できるようになる。

連続して同様の実験を行うと、最初のスピン測定でアップが出れば2回目の測定でも必ずアップになる。

これは1回目の測定後状態がやはりアップ状態であることを意味している。

ダウン状態の場合も同様である。

つまり測定後状態は観測値に対応した固有状態になっている。

だからシュテルン・ゲルラッハ実験は確かにスピンの理想測定の例である。

「正確に」物理量を測るという意味を誤解されないように、ここで補足しよう。

図1や図2のように最初から固有状態になっている場合ではなくて、図4のように固有状態の線形重ね合わせだとしよう。

f:id:MHotta:20140426043827j:plain|ψ〉=c₊|+〉+c₋|-〉という量子状態に対して、アップとダウンの確率はそれぞれp₊=|c₊|²、p₋=|c₋|²であり、スピンz成分の値は確定していない。

この量子揺らぎのために「正確にスピンは測れない。」という表現をする人もいるが、これは誤解を呼ぶ表現である。

「正確な測定」の正しい定義では、実際違う。

|ψ〉の状態にある多数のスピンに対して測定を行う場合、得られる測定結果の確率分布が正確にp₊=|c₊|²、p₋=|c₋|²に一致する測定が、「正確な測定」である。

(より正確にはスピンのアップ、ダウンがそのまま測定器のメータにアップ、ダウンとして表示される完全相関があるということ。)

従って量子的に物理量が揺らいでいる場合でも、正確な測定は存在するのだ。

エネルギー(ハミルトニアン)の場合も、もちろん同様である。

ここで、後の測定時間とエネルギー測定誤差の話で使うために、スピンの測定で1つ強調しておくことがある。

スピンの測定時間とスピンの測定誤差の間には、当然ながら、なんの不確定性関係も存在しない。

例えばシュテルン・ゲルラッハの実験で、印加する不均一磁場を空間的に絞りつつその大きさを強めれば、この実験にかかる時間はいくらでも短くできる。

つまりスピンを正確に測る実験の測定時間は原理的にはいくらで短くできる。

この事実は後の議論でまた使う。

 

量子測定には理想測定以外にも図5のように様々なカテゴリーが存在する。 

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まず既に述べたが、物理量の正確な測定結果を与え、かつ測定後状態が対応する固有状態になる場合が「理想測定(Ideal Measurement)」。

そして単に物理量の正確な測定結果を与える測定を「正確な測定(Precise Measurement)」と呼ぶ。

この場合、測定後状態は固有状態とは異なる量子状態になってしまう場合がある。

そして測定結果に誤差も許し、かつ一般には測定後状態も測った物理量の固有状態にならない「一般測定(General Measurement)」というものもある。

測定後状態を続く量子操作に使いまわさない場合には、測定後状態に興味を持たず、測定結果の出力だけを行う一般測定もある。

その場合は特に「POVM測定(Positive -Operator-Valued-Measure Measurement)」と呼ばれたりもする。

世の中の大半の実験における測定は、一般測定だったり、POVM測定だったりする。

 

一般測定における測定の誤差の定義にはいろいろな流儀があるが、例えば小澤の不等式では誤差演算子を用いて定義されている。

図6では物理量Aを測定する一般測定の概念図が与えられている。

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横軸右方向に時間が流れており、左側の初期時刻に測りたい注目系と測定機のプローブ系(測定機で特に注目系と相互作用を直接する部分。)の初期状態が与えられている。

図6ではAの値を示す測定機のメータの針の位置を物理量Mとしてある。

時刻t=0からt=τまでの間に注目系とプローブ系は測定のための相互作用をし、注目系の情報の一部はプローブ系に書きこまれる。

相互作用が切れた後には一般には注目系とプローブ系の量子もつれ状態になっている。

この場合誤差演算子N(A)はMのハイゼンベルグ演算子M(τ)とAのシュレーディンガー演算子A(0)の差として定義される。

そしてAの測定誤差ε(A)は図7に書かれている式のように、合成系の初期状態に対する誤差演算子の2乗平均の平方根で与えられる。

 

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図7では、注目系の他の物理量Bの撹乱η(B)と、普通の不確定性関係に現れる標準偏差も与えておいた。

η(B)は、一般にはAと非可換なBがこの測定の間にどのくらい乱されるかという目安であり、撹乱演算子D(B)の2乗平均の平方根で与えられる。

AとBの間では、以下に与えた小澤の不等式も成り立っている。f:id:MHotta:20140426043911j:plain

(註:ここでパウリ行列の1つの成分σの理想測定での誤差ε(σ)についてコメントしておく。注目系の物理量σ=(|+〉〈+|-|-〉〈-|)⊗Iに対して、プローブ系のメーターの位置Mはスペクトル表示でM=I⊗(|u₊〉〈u₊|-|u₋〉〈u₋|)と書くことができる。|u₊〉、|u₋〉はMの固有値+,-の固有状態である。理想測定ではUm|+〉|0〉=|+〉|u₊〉、Um|-〉|0〉=|-〉|u₋〉が成り立つ。従って注目系の重ね合わせ状態|ψ〉=c₊|+〉+c₋|-〉に対しては、測定相互作用後にUm|ψ〉|0〉=c₊|+〉|u₊〉+c₋|-〉|u₋〉という量子もつれ状態が作られる。このことを用いると、任意の|ψ〉に対してε(σ)=0が直接確認できる。)

 

さて、測定時間とエネルギー測定誤差の話に戻ろう。

この2つの間には不確定性関係が成り立たないことを理解するための最も簡単な例は、やはりスピン系である。

図9のようにz軸方向の一様磁場中にスピンを置くと、そのハミルトニアンはスピンz成分に比例する。

従ってスピンを正確に測れれば、このエネルギーも正確に測れるのだ。

f:id:MHotta:20140426043917j:plain

ところが、上で述べたように、いくらでも短い測定時間でスピンの正確な測定は行える。

つまり測定時間τもエネルギーの測定誤差ε(H)も同時に零にできる。

だから「有限時間ではエネルギーは正確に測れない。」というのは、全く間違った主張なのだ。

もちろん有限時間でもエネルギー保存則は破れたりしない。

これに関しては下記の記事も参考にしてもらいたい。

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744

(註:この記事ではこれまで電子のスピンで説明してきたが、これだと磁場中でのローレンツ力が無視できず、図のようにならない。そこで実際の実験で使われるような中性原子に置き換えた。この指摘をして下さった、谷村省吾氏に感謝する。)

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量子エンタングルメントと時間の矢

セス・ロイドさんは、量子メカニックを名乗る、猛烈に頭の回転が速いMITの教授である。

量子情報分野では多くの良いお仕事をされており、また「宇宙をプログラムする宇宙」(早川書房)等のポピュラーサイエンスの本の著者としても有名である。

1988年の彼の博士論文での研究[1]が記事[2]に取り上げられていた。

今回このセスさんが考えていた周辺のことに触れてみたい。

量子エンタングルメントと時間の矢の問題である。

但し理解のための準備も必要なため、少し違う情報理論の入口から入っていこう。

まずアリスが1ビットの古典情報が書き込まれている電子スピンを持っているとしよう。

例えばz軸方向のダウン状態を0に、そしてアップ状態を1に対応させればこれは実現できる。

アリスはできるだけ安全にこの情報を秘匿しておきたいと願っているとしよう。

古典情報は簡単にコピーできるのが特徴であり、本来は最大の利点でもある。

実際図1のように、ボブが持っているスピンを近づけてある相互作用をさせると、アリスの持っていた1ビットの情報はボブのスピンに正確にコピーすることが可能だ。

f:id:MHotta:20140418141443g:plain

もしボブからコピーの連鎖が起きれば、世界中にアリスの情報はいくらでも拡散してしまう。

しかし量子エンタングルメントを用いると、アリスはボブとの間だけで情報を安全に秘匿することが可能となる。

相互作用を変えると、アリスとボブのスピンの合成系を図2のようなベル状態(最大エンタングルメント状態)にすることができるのだ。f:id:MHotta:20140418141455g:plain

図2の0と1に対応している2つのベル状態|Ψ(0)〉、|Ψ(1)〉は互いに直交しており、2つのスピンを跨ぐ特別な測定(ベル測定)をすると誤差零で2つの状態を区別できる。

しかし片方のスピンだけを調べても、書きこんだ情報を決して得ることができないという特徴がある。

|Ψ(0)〉でも|Ψ(1)〉でも、図3のようにそれぞれのスピンを測れば0が出る確率は50%、1が出る確率も50%と一致している。

f:id:MHotta:20140418141503g:plain

つまりアリスが持っていた情報の依存性が全くないのだ。

2つのスピンを持っているとその状態重ね合わせの係数に書かれている情報を読みとることができるが、単独のスピンだけからは決して情報は漏れない。

つまり2つのスピンは図4のように「割符」として使うことができる。

f:id:MHotta:20140418141513g:plain

一般に割符は2つのパーツが揃ったときにだけ情報が読み取れるものだが、この量子割符には安全性が物理法則によって原理的レベルから保証されているという利点がある。

さてここでセスさんの話に戻ろう。

セスさんは博士課程の学生の頃、時間の向きの存在理由をこの量子エンタングルメントに見出そうとしたのだ。

通常の相互作用は、量子的にもつれていなかった粒子達をどんどんエンタングルさせて行く。

個々の粒子が持っていた情報は、上述の量子割符のように、非局所的なエンタングルメントという形で保存されるようになる。

どの部分系でもまるで情報が消滅したように見えるが、全体として情報は全く失われていない。

図5のように、熱平衡から大きくずれた初期状態にある多体系では、時間とともに相互作用を通じて粒子群はもつれ合いながら発展していき、その情報を蓄えるエンタングルメントの構造も大規模化していくのだ。

f:id:MHotta:20140418141524g:plain

この現象が時間の矢の本質であるとセスさんは考えていたのだという。

この設定ではエンタングルメントに蓄えることで情報を少しも失うことなく、時間の向きを論じることができるようになる。

この観点に意味があるのなら、緩和の各素過程で増加し続けるはずの量子エンタングルメントは、緩和の終状態である熱平衡状態において「何らかの意味で」で最大になっているはずだ。

しかしそれを確かめるのは簡単ではない。

そこで、熱平衡状態は典型的なカオス状態の1つに違いないという前提のもと、彼は多体系の「典型的状態」の量子エンタングルメントを調べてみたのだ。

自由度の大きな多体系において、純粋状態の集合を考える。

それは一般に高次元のヒルベルト空間の中の単位球面となる。

そして彼はその系を2つの部分系に分け、その2つの系の間のエンタングルメントの分布を計算してみたのだ。

確率測度はさきほどの単位球面上でとる。

得られた結果は彼の期待に応えるものだった。

その典型的な値は量子エンタングルメントの最大値にほとんど等しかったのだ。

つまり典型的カオス状態である熱平衡状態も、やはり量子エンタングルメントが(ほぼ)最大となる状態と考えられる。

時間が流れる向きはエンタングルメント(量子的相関)を最大にする向きと確かに一致するというのが彼の出した答えである。

この結論を含む彼の博士論文は提出当時ほとんど顧みられることはなかったそうだ。

量子情報理論は当時「大いに不人気だった。」("was profoundly unpopular.")

論文を学術誌に投稿しても「この論文には物理がない。」("no physics in this paper")と査読者から酷評されたらしい。

ところが彼のこの仕事は統計力学の分野だけでなく、最近ではブラックホールの情報喪失問題でも重要視されるようになったのだ。

(註:例えば最近ポルチンスキーさん達が提案したブラックホールファイアーウォールの話の基礎になっている「Page Curve」や「Page Time」の概念を導くのにも、彼等の論文は引用される。これについては下記の記事を参照。

http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/15/112849

なお[1]の共著者は、彼の指導教官。)

面白い話である。

ところで時間の矢の問題はセスさんの話で終わったのだろうか。

現実はそう簡単ではない。

量子エンタングルメントは典型的な多くの場合に相互作用を通じて大きくなるが、そうでない場合もある。

実際、量子論でも古典論でも状態の再帰性という性質がある。

十分長い時間をかけると、任意の状態の近傍に物理系を時間発展させることが可能なのだ。

(但しその時間は宇宙年齢をはるかに超える長時間かもしれない。)

つまりほとんどの時間領域でエンタングルメントが増加していても、ある時刻から減少に転じて熱平衡から大きくはずれた低エンタングルメント状態になることも起きるのだ。

この再帰性はエネルギー一定を満たす状態集合の「面積」が非常に大きくても有限であることに起因している。

図6のように、(E,E+ΔE)の間のエネルギーを持つエネルギー固有状態で張られる部分ヒルベルト空間を考えよう。

これらの固有状態の重ね合わせで作られる純粋状態の集合は、この空間の単位球面となる。

そしてその上に図6で青色に塗られているような微小領域を考える。

時間発展演算子Uでこの青色領域の中の純粋状態全てを発展させると、その微小領域は球面上を移動していく。

領域の形は変わっていくが、重要なのはその面積は不変であるという性質だ。

f:id:MHotta:20140418141532g:plain

そして図7のように、このUを何回も作用させてどんどん青色領域を移動させていこう。

f:id:MHotta:20140418141539g:plain

 球面の面積は有限であるため、そのうちに必ずもとの微小領域とオーバーラップを生じる。

この事実は、いくら領域の面積を小さくしても有限である限り、変わらない。

このために状態の再帰性が導かれる。

セスさんの結果[1]を踏まえても、時間の矢の問題について多くの研究者はもっと精密に問題設定から熟考する必要があると考えており、現在まで多くの取り組みがなされてきた。

そして孤立系の熱的純粋状態(Thermal Pure State)研究の最近の進展へと繋がっている。

 

追記:説明をセスさんの博士論文の内容により忠実なものに変更しました。(2014年5月13日)

[1] S. Lloyd and H. Pagels, Ann. Phys. (NY) 188, 186 (1988).

[2]  "Time’s Arrow Traced to Quantum Source", https://www.simonsfoundation.org/quanta/20140416-times-arrow-traced-to-quantum-source/

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